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美しい風景の中に人の優しさを描きあげた物語の花束。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
ロザムンドおばさんの贈り物
本書は7つの物語の入った短編集で、イギリスの地方の美しい風景の中に、誰かの日常のひとこまを描いています。それぞれのお話の主役たちは、自信を失ったり途方にくれたり、心配事や小さな悲しみを抱えています。けれども彼らは皆、立ちすくんだ場所からちょっと勇気を出して一歩を踏み出し、自分の(ごく平凡な)人生を歩んでゆくのです。その顔には微笑みが浮かんでいます。
そうなるまでには何があったの?最初のお話「あなたに似た人」をご紹介しましょう。

冬のスキー場にて。スキー上級者の恋人は、初心者の彼女の恐怖感に気づきません。ここを滑り降りるなんて、私には出来ない、臆病なんだもの。もうこの恋もあきらめてしまおう。少女がそう思ったとき、ひとりの紳士が声を掛けます。
「昔、あなたに良く似た娘さんを知っていましてね。あなたと同じように怯えていましたよ。」

少女は紳士に助け励まされながら、恋人の待つスロープへと滑ってゆきます。スキーの喜びを知った少女の心には、自信が芽生えていました。
「なんという貴重な贈り物を、あたしはあの人からもらったことか。」
滑降の成功を喜んでくれたその紳士と、“昔知っていた娘さん”の正体を恋人に教えられた少女の目には、涙が浮かぶのでした。

その他の作品も、人の繋がりの中の優しい情愛を描いています。私が本書に出会ったのはずいぶん前のことですが、以下にご紹介する2編は長く心に残る物語でした。

ずっと年上の親友・ご近所のソーコムさんを失ったトビー少年が、羊の出産や恋人たちの仲直りに遭遇して“生きる”ってことを色々考える「長かった一日」。
愛する妻の連れ子は8歳と6歳の姉妹だ。ビルはその幼い瞳にまじまじと見つめられると、たじろいでしまう。新しい父親に娘たちが少しずつ心を開いてゆく風景を描く「日曜日の朝」。

上品な甘美さがあり、どこかユーモラスで、後味がたいへん爽やかで心が和みます。そこはかとなく良い香りを漂わせる花束みたいな作品集です。
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  • 掲載日:2017/12/01
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この書評へのコメント

  1. こまち2017-12-01 19:59

    大好きな作家さんです。私もずいぶん前に何作か読んでいて、詳しい内容は忘れているのですが、心が温まる素敵な物語が多かった記憶が…。まだ読んでいない作品を読んでみたくなりました。

  2. Wings to fly2017-12-01 21:52

    こまちさん
    ピルチャーさんのファンに出会えて嬉しいです(^^)/
    対人関係の中では、心がヒリヒリしたり泣きたくなるようなことにも出会いますけれども、それを癒してくれるのも人の思いやりや優しさなんだなって、こういう本を読むと感じますね。本当に温もりをくれる作品です。
    寒い季節にぴったりかも^ ^ 何かお読みになったら是非感想をお聞かせください!

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