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「敗北を抱きしめて」の筆者が1987年に書いた、太平洋戦争の日米サイドから見た人種差別的攻撃についての記述、敵への憎悪、それを煽るマスコミ、政治家、軍人たちの心理を、歴史的、文化的、宗教的に分析する。

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容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別
「敗北を抱きしめて」のジョン・ダワーが1987年に書いた、太平洋戦争における日米両サイドから見た人種差別的攻撃内容についての記述、アメリカ人で日本人の妻を持つ筆者が、できるだけニュートラルな見方から、そして戦争遂行を行った国民目線から見た敵方への憎悪、そしてその憎悪を煽るマスコミ、政治家、軍人たちの心理を、歴史的、文化的、宗教的に分析する。

アメリカ人は太平洋戦争においてまずは欧州戦線を重視、最初はドイツを打ちのめすことに全精力を割いた。ドイツのナチズムに対する嫌悪は当然あったが、それは国民国家としてのドイツを認めたうえでの嫌悪であった。しかし日本に対しては、その文化的背景、宗教的背景が理解できないものとして捉えられ、国民国家としての成熟度は、欧米諸国を45歳とすれば12歳以下、占領軍司令官マッカーサーが戦後語った通りの評価を戦前から下していた。そのためか、ドイツやイタリア系移民は第二次世界大戦中でも強制収容されることはなかったが、日系移民は全員が強制収容所送りとなった。さらに、黄色人種である日本人への能力評価ができず、戦争前には英米軍人は日本人の戦闘能力を過小評価し、シンガポールやハワイの軍事的急襲ができるとは思っていなかった。だからこそ、真珠湾攻撃やシンガポール攻撃の成功がショックとなり、さらには国民的憎悪が一層増大する結果となる。

ドイツが降伏する前後からは、日本兵を捕虜とすることは行わず殲滅する、さらには日本に居住する国民さえ皆殺しにすべきだ、という世論さえ是認される風潮も起きてきた。日本人を人類以下の猿にたとえ、殺さなければ米兵が殺される、死んだふりをしている日本兵に殺される前に火炎放射器で殲滅することが太平洋の島々では実行されていく。米兵の間には日本兵から奪った戦利品の刀や銃、だけではなく耳や鼻などまでも自国に持ち帰る兵隊もいた。ガダルカナルやペリリュー島での戦いで、日本兵が上官から死の突撃を命じられバンザイ攻撃をする様、沖縄戦では日本軍が沖縄の日本人をも殺戮するさまを見て、日本軍への憎悪を増した。現地人に紛れ込んで戦闘を続ける、捕虜を虐待する、現地人を殺害する、こうしたことが1945年3月の東京大空襲以降の大都市無差別爆撃につながり、広島長崎への原爆投下の正当化にも繋がる。

アメリカ本土では日本研究者の分析から、ユニークで不可解な国、アメリカ人には理解できない精神構造、幼児期に適切に教育が施されないための幼児性と他者依存性が、中国大陸などの残虐行為、死を厭わぬように見える無鉄砲な突撃、特攻など集団的神経症とも言える国家的狂気の根源ではないかと言われた。

一方、日本サイドからみた敵国のイメージの記述もあり、鬼畜米英と蔑んだ欧米人と同盟国ドイツ人、イタリア人の違いについての説明、東洋の指導者たる日本人像とその理論的背景にある神道や天皇制の系譜、大東亜共栄圏の理想とアジアにおける対アジア人に向けた人種差別なども紹介される。

日本と米英が戦った太平洋戦争は「人種差別戦争」だったのではないかという評価もある。筆者は欧米人から見た明治維新以降の日本について次のように記述する。「江戸時代以前はこれといった資源も産業もなかった日本が、明治維新以降は『セリフ覚えの良い新米俳優』として、第一次大戦後のパリ講和会議までは表面上はうまく振る舞った」しかし、張作霖爆殺事件以降、日本はその植民地的野望を表面化させ世界から孤立する道を選ぶ。「敗北を抱きしめて」へ向けての前奏曲的な著書として読むと、一層筆者が主張するポイントへの理解が深まる。現在進行中のアラブ・ムスリム社会と欧米・キリスト教社会の対立で、太平洋戦争での歴史的教訓は活かされるのであろうか。フランス人が描くムスリム像は果たして太平洋戦争時の対日漫画との共通点はないのだろうか。人種的、宗教的なステレオタイプ化は太平洋戦争時の憎悪増大の原因では無かったのか。ナショナリズムの高揚が戦争を招いたのではなかったのか、ジョン・ダワーの著作はこうしたことを考えさせられるきっかけにふさわしい。
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  • 掲載日:2017/05/13
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