播州姫路藩15万石。書庫係片桐春之介は武術も算術もからきし。人付き合いも苦手で、常に書庫に引きこもっている様子から「かたつむり」というありがたくない綽名を頂戴していた。
しかし、当の本人は好きな書物をいくらでも読める今の役職に大いに満足している有様である。
藩主松平直矩は数え34にして既に4度の国替えを命ぜられており、「引っ越し大名」の異名を持つ。しかし、さすがにもう引っ越しは無いだろうと思いきや、将軍綱吉の寵臣柳沢吉保に色目を使ったことを恨まれ、5度目の国替えが決まる。しかも7万石への減封のうえ、九州は豊後高田へ海を渡るという厳しい命であった。
しかも、国替えの度にその引っ越しの采配を揮ってきた木村重蔵が亡くなっていた。激務の引っ越し奉行には誰もなり手がいない。そんな時、幼馴染の鷹村によって春之介が推挙される。
続けて引きこもりの話を読んでしまった。とはいえ、役所に勤めている春之介と現代の引きこもりを並べるのは少し違うかもしれない。
だが、自分の世界に閉じこもっていた男が無理矢理日の当たる役目を仰せつかった結果、書物で培った知識と、周囲の協力によって、意外な才能を発揮するのは胸のすく展開ではあった。
前任者木村の娘於蘭との恋、幕府権力との藩を挙げての情報戦、江戸詰めと国許との連携など盛りだくさんで飽きさせない。
そして、さらに二度の国替えを経験した後、引っ越しせずに定住を目指す引っ越し奉行が考えた作戦にもあっと言わされる。
播州で鈍才といわれる男といえば、赤穂の昼行燈・大石内蔵助がすぐに思い出される。そう思っていたら終盤にしっかりとその人が登場。あまりに思い描いた展開に、つい手を叩いて喜んでしまった。
江戸幕府の初期は各大名の力を削ぐのに首脳陣は知恵を絞っている。親藩だと簡単に取り潰すのは難しいだろうから、国替えという手段に頼ったのだろう。
私たち島津家中の人間は鎌倉以来国替えを経験していないから、その苦労はわからない。しかし、引っ越さないのはリストラも無いことを意味する。非生産者である武士が減らない結果、藩は慢性的な貧乏に。それが現代でも鹿児島県は公務員の比率が高く、今でも貧乏のままである。ギリシャと同じだね。
少し話が逸れたが、実際石高半減の上での引っ越しということで、もちろんリストラも敢行しないといけない。そのリストラだが、これがまた実に人情味溢れるよい案で凌ぐ。
さて、本作品は映画になっているそうだ。映画は観ていないが、於蘭役に高畑充希というのはいかがなものか。いや、かわいらしいだけではなくコメディエンヌとしての才能もあるとは見受けられるが、三十近くの行き遅れという感じは出せなかったのでは? ここは綾瀬はるかあたりが適任だったのでは、と思うのだが、ご覧になった方はいかがだろうか。
この書評へのコメント