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台所という小さな宇宙で行われる、日々の規則的な営みについて、ひとつの体系を示してくれる本

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!2級
少ないもので料理する
 料理は、私にとってもっとも面倒な家事である。
 著者も書いているように、料理というのはただ作って食べて終わりではなく、献立を考えて、材料を買い出しに行き、それぞれ適切な保存方法で保存し、腐らせる前に食べきることを計画しなければならない。いざ料理をするといっても、キッチンに立ち、道具をばたばたと取り出してきて、あちこちにボウルや取り皿を置いて、切ったり下ごしらえしたりオーブンを温めたりと、マルチタスクで作業を進めていかないと時間ばかりがかかる。
 料理ができあがれば、冷めないうちに食べたい。だが、作るのにかかった時間と比べると、食べてしまうのは一瞬だ。当然、その後には、使った食器洗いや道具の片付けが待っている。

 そんな面倒な家事である料理を、できるだけシンプルに、昨今流行の持たない暮らし的な視点で書き表したのが本書である。
 短い章のひとつひとつに、村上春樹の小説や良寛、魯山人といった著名人の引用が並び、料理の本だと簡単な気持ちでめくっていくと驚かされる。料理という作業の必要性が、食育の点からだけでなく、人が生きるための人生哲学だったり、決まった作業をすることで得られるリフレッシュだったり、と、様々な点から切り取られていく。
 手間暇がかかる、贅沢な料理が勧められているのではない。
 だが、意識を整えることの贅沢さというのか、自分や家族の身体に入り、やがてその心身を構成することになる物質に無関心でいること、それがひいては自分自身にも無関心になり、価値を感じられなくなることに繋がるのではないか、と思わされる。料理は一番小さくて身近な自立の技術であり、自分へのケアなのだろう。

 分かってはいるけどやっぱり料理は面倒なのだ、と、堂々巡りに入ってしまいそうな私のような読者に、いかにシンプルに、簡便に料理空間を整えていくかをレクチャーしてくれるのも本書の特徴である。
 台所の広さや道具の選び方、食材の保存方法、これがあったら便利という道具も、長く実際に使うことを考えて選ばれている。それぞれの用途に適したものをいくつも買いそろえ、片付けたり出したりするくらいなら、万能鍋やなんにでも使えるフライパンを手早く取り出せるところにつるしておく方が確かに楽だろう。
 二つだけの材料で作るレシピや、ソースを手作りしてそのバリエーションで食卓に変化をもたらすレシピなど、その季節に美味しい食材をうまく取り入れたら、十分に満足できるおかずになりそうだ。なにより、作ってみようかなという気持ちにさせられる。

 台所の掃除、仕舞い方まできっちりレクチャーされて、読み物としても満足できる一冊だった。それこそかつての家庭で、一家に一冊常備されていた昔ながらの料理の本のような頼もしさを感じる。
 家政学、料理道、とでも言うような、個人個人の料理が体系的に表現されるだけで、そこに世界観と価値が生まれる。日々のことなのだから、たゆまず実践してみたいと思った。
  • 献本書評  
  • 掲載日:2022/01/27
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