本書は日本のサイエンスライターで最も有名といえる竹内さんによる虚数にまつわる初心者向け案内本です。虚数にまつわるという意味は、虚数についての話題だけでなく、数学や宇宙物理学、量子力学など幅広い科学の歴史について書かれており、かつとても平易な記述となっています。
ただある程度数学をご存知の方やそれ以上の方にとっては自明のことも多く、本書の中盤はいささか冗長な印象もありますので、特に面白かった「第6章 もっとも美しい数式・オイラーの等式と虚数」について書きたいと思います。
「博士の愛した数式」でご存知の方も多いと思われるオイラーの等式 【eiπ+1=0】(eのiπ乗です。このようにしか表記できません)ですが、まず竹内さんはeの解説から入ります。eはネイピア数あるいは自然対数の底と呼ばれe=2.718…です。この数値を銀行預金で年利100%であったときの預金の増え方で説明します。1万円を年利100%で1年間預けると利子が1万円ついて元利金が2万円になります。利息が半年毎に払われるとすると半年後に50%の利息が支払われさらに半年後に元金1万円と途中の利息5千円の合計について50%の利息が払われます。この利息が払われるタイミングをどんどん短くして無限にすると2.718…という数値となります。つまり1万円を年利100%(数値としては1)で無限に利子がもらえる間隔を小さくしていくと元利金はe1=2.718…万円となります。
従って年利200%であったならe2=7.387…万円。凄く儲かりますね。竹内さんはここで銀行が虚数金利を導入したという話にします。金利をiπに設定したらどうなるか?
実はオイラーの等式が示すようにeiπは-1になります。つまり1万円1年間預けると1年後銀行から更に1万円要求されるということです。なかなか面白い説明だと思います。
しかしそれで虚数つまり2乗するとマイナスになるという数字が身近になるわけではありません。それは生まれて物の数を数えることから数学を学ぶ人間は2乗するとマイナスになるということを現実世界でイメージすることができないからです。しかし数学は純粋に人間の頭の中で考えられてきたものであり、現実の世界を前提として発達してきたものではないので現実としてイメージできないことがあるのは当たり前なのです。
数学を始めとして学校の勉強って実生活には何も役に立たないという論をたまに聞きます。卑近な例で言えば私は数学が実際の仕事に関係がありました。ファインマンが「至宝」と述べたオイラーの等式の元になった数式eiθ=cosθ+sinθを証明するためにテイラー展開という方法を使います。
以前に債券を扱う仕事をしていた時には債券と金利の関係、金利が動くと債券価格はどれくらい動くのかというリスクを測る一つの方法としてこのテイラー展開の結果を利用するものがあります。もちろん計算自体はコンピューターが行うわけですが、少なくとも理解をしていなければ話になりません。
私は学生の頃からこのような仕事をすることを考えていたわけでも目標にしていたわけでもありません。学生の頃から自分の道が決まっている人はごく少数で、特にサラリーマンの方はどんな仕事に就かされるか分からない部分もあります。従って私は少なくとも高校生ぐらいまでの勉強は特に国語、数学は半強制的にでもさせることがその後の人生の可能性を大きく左右すると考えています。直接役に立たなくても基本的な物を考える力が養われるからです。日本が少なくとも今と同じくらい先進国であり続けるためには教育及び競争は欠かせません。
「世界に一つだけの花」という平成の名曲は私もいい楽曲だと思うのですが、少し違和感があるところがあります。それは世界に一つだけの花だよと周りの人が言ってくれる社会は大変素晴らしいと思う反面、自分が自分のことを世界に一つだけの花と言うことは何か自分を甘やかし言い訳をしているような部分があるような気がしてならないのです。槇原さんが結局自分に勝てずに薬を断てなかったという事実が判明しているからなおさら。勉強そしてその後の仕事について言えば中国・韓国に日本の学生は太刀打ちできるのかとても将来が心配です。
話が逸れましたが「第7章 ホーキングの虚時間の宇宙」も面白い章でした。全体的にどちらかというと今まであまり数学等に関心がなかった人向けに興味を持ってもらおうと書かれた本と言う印象です。
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