本が好き!ロゴ

閉じる

「私の勤務した博物館の収蔵庫には、人さまの注目からは無縁の古地図が数多く収納されている。それらを前にすると、江戸時代には伊能図よりもこちらの方が認知されていたはずと思ってしまう。」(あとがき127頁)

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
図説 日本古地図コレクション (ふくろうの本)
 世間には、地図好きも古地図好きも多いようで、研究者も関連書籍も数多い。「伊能図」など大人気で、大型の豪華本がよく売れたと聞いたことがあるし、伊能忠敬というより伊能図制作がモチーフの映画にもなっている(中井貴一主演「大河への道」)。
 こうした関連書の中で、伊能図のみならず「日本図」全般に広い目配りをしたうえで、写真と解説のバランスをとった手頃な1冊が本書である。著者は二人とも博物館勤務ということで、このあたりのモノにとても詳しくかつふだんから囲まれていたのだろう。

 4章構成ではあるものの、造本の都合上かカラー図版は前半に、後半には解説と白黒図がまとめてある。一つの章をまとめて読むには、前半と後半とを行ったり来たりする必要があるが、さほど気にしなければ、冒頭から一気に読んでも、ぱらぱらと行きつ戻りつして読んでもよい。
 なお、注意されたいのは、本書のタイトルは「日本古地図」となっているが、古地図全般ではなく日本全体を表現する「日本図」の歴史を扱ったものであることだ。江戸切絵図や街道図のようなものはとりあげられていない。初期の日本図である「行基図」から、近世の伊能図、国絵図をもとにした正保日本総図、III章は「海外から見た日本」と題して、海外の日本図をまとめて紹介している。ケンペルやシーボルトといった海外の日本図ももちろんある。なお、日本のみを記したものもあれば、世界図の中でどのように日本が描かれているかをみたものもある。

 本書で特徴的なのは、IV章「地図を楽しむ」という章が設けられていることではないか。「地図皿」とよばれる絵皿をはじめ、櫛や刀の鍔など、地図をデザインにとりこんだ物品が紹介されている。現在でも地図をあしらったグッズはたくさんみられるが、江戸時代にもこんなにあったのかと驚く。意匠としても取り込むあたり、現在でも続く「地図好き」の系譜も深い。
 なお、地図皿のはじまりは、平賀源内が指導したという讃岐の「源内焼」からはじまったという。単に皿というモノをつくるだけではなく、「地図をデザインに使ってみる」というアイデアも提供したのだろうか。

 あらためて眺めていると、伊能図の正確さにはおどろくばかりではあるが、地図に求められているのは「正確さ」だけではないということもよくわかる。地名も含めたそれぞれのお国柄といった地理情報を盛り込んだ地図が少なくない。興味深いのは、蝦夷の部分をあとで貼り込んだ地図もあることだ。地図としての最新情報を反映したということになろう。日本図は地理的な情報だけではなく、「日本ってどういうかたちなのか」という関心が反映されたとみることもできよう。
 そのなかで圧巻なのは、鉢形恵斎による「日本名所の絵」である(48~49頁、IV章「地図を楽しむ」)。俯瞰によって日本全体をみせ、その中に各地の名所を反映させている。デフォルメされているとはいえ、だいたいの日本の立体的な「かたち」がわかるだけではなく情報も豊富で、また空から見ているようで楽しい。地図の魅力を最大限に詰め込んだ1枚となっている。

 本書は図版の豊富さだけではなく解説も充実しており、ポイントをついた指摘も数多い。今でこそ有名な伊能図だが、同時代でその存在を知っている者・見られる者は限られており、広く使われていたものは別であったことを解説してくれる。また、刊行販売されたものと書かれたものとでは流布の程度がだいぶ違ったであろうこと、さらにそうした日本図は「いくら」したのか、などなどまで記述している。
 地図好きに地図について書かせたら、なんとも奥が深すぎてくる。

  • 本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
  • 掲載日:2025/11/20
投票する
投票するには、ログインしてください。

この書評の得票合計:14

あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

    No Image

    コメントするには、ログインしてください。

    図説 日本古地図コレクション (ふくろうの本) の書評一覧

    取得中。。。