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メソポタミアの発掘地で発掘団の団長の妻が殺された。状況からして密室殺人である。彼女は死んだはずの前夫の存在に怯えていた。シリア旅行中のポワロが地元警察の署長にこの難問の解明を依頼される

殺人は癖になる (1978年)
名探偵ポワロ長編第十二作目。今回は、イラクの発掘現場での事件。原題は「メソポタミアの殺人」だが創元文庫では「殺人は癖になる」とし、メソポタミアの殺人は副題扱いとなっている(「殺人は癖になる」は第17章末のポワロのセリフ)。

テル・ヤムリジャ遺跡の発掘調査団は、エリック・レイドナー博士を団長に、その妻ルイーズ、建築技師のケアリー、碑銘解読家のラヴィニー神父、化学者のマーカドとその妻、運転手のコールマン、写真技師のライターら雑多なメンバーからなる。
本書の語り手は、エイミー・リスランという看護婦。団長のレイドナー博士が、妻の精神的な挙動がおかしいので面倒をみる看護婦を募集していて、それに応募して調査団に加わった。リスラン看護婦は、ここに来る前から、調査団の雰囲気がギスギスしたものだと聞く。もっと以前はそうでもなかった。聞いた噂だと、レイドナー博士は2年前に「美女」ルイーズと結婚したが、ルイーズが来てからそうなったのだという。彼女は何かに怯えているようだが、それが何なのかわからない。単に夫や他の男の気を惹くためだという者もいれば、神経症だという者もいる。調査団は、殆ど新参者からなるせいもあるかもしれない。
リスラン看護婦が到着すると、確かにレイドナー夫人は何かに怯えている様子を見せる時もあった。一方で、リスラン看護婦がルイーズの散歩について行こうとすると拒絶することもある。ある金曜の晩、ルイーズはリスラン看護婦に自分の恐怖の原因を語った。それは20年も前の最初の結婚にまつわるものだった。死んだとされる前夫フレデリックが、ルイーズの再婚が現実化しそうになると脅迫状を寄越すのだった。ところが、レイドナー博士との結婚の時にはこのようなことがなく、脅迫状が来たのは結婚した2日後だった。その後、2年は間脅迫状が来なかったが、最近来るようになったという。リスラン看護婦はその脅迫状を見て、レイドナー夫人の筆跡と似ている、自作自演のような感じも受けた。
その翌日、レイドナー夫人が昼寝を始めたので、リスラン看護婦は読書をした。3時頃、レイドナー博士がレイドナー夫人の部屋を空けると夫人はベッドの脇に殴打されて亡くなっていた。調査団の宿舎は、コの字型で、特に夫人の部屋に出入りする者はみられなかったし、門の外には召使いがいて、外部からの侵入者はいないという。ここを管轄するメイトランド署長は、おりしも名探偵ポワロがシリアに調査旅行に来るのを知っていて彼に事件解明を依頼した。ポワロはリスラン看護婦を言わば助手にして、密室殺人に挑む。

調査団の雰囲気や砂漠での孤立した宿舎の描写は迫真的。夫が考古学者であると言う著者の経験も生きているだろう。トリックもかなり凝ったもので、古典的な密室者に著者独自の工夫がある。犯人は意外ではあるが、これに納得できるかどうかは、意見が分かれるのではないか。

本書にはヘイスティングズ大尉は出て来ないが、大尉が登場しない多くの作品と同じく助手格の人物(リスラン看護婦)が登場する。本書の他にも記録者は何人かいるが、記録者の性格の描き分けの技はなかなか優れている。

珍しく末尾に本書で別の事件への言及がある。「ポワロはシリアに戻り1週間後にオリエント急行で帰国したが、またまた事件に巻き込まれた」。必ずしもそうだとは断言できないが、ここまでポワロものの長編は、あたかも執筆順に事件が起きたように思わせてきた。しかし、本書は初めて執筆順と事件発生順が異なることが明らかになる。つまり本書は第十二作でありながら第九作の直前の事件となる。

以下、評者のどうでも良い所感。
自分は、シャーロック・ホームズ・シリーズから推理小説を読み、集め始めた。自分が読み始めた頃(1970年代)、ホームズものは創元文庫で揃えた積りだった(当時の創元推理文庫にない「事件簿」の存在を知ったのはかなり後だった)。その結果、多くの古典的推理小説を創元文庫で集めた。クリスティも例外ではなく、最初は創元文庫で集めた(後に友人からかなりのクリスティの古本をもらい、早川でこんなに刊行していると知った)。創元文庫ではクリスティのどんな作品を集めたのだろうと思っていたが、こうして再読してみて、ポワロもの長編の初期(≒名作群)の十二作を刊行していたと知った。本作以降も20作くらいはポワロものがあるが、中後期は全て早川書房のみの刊行である。昔は、あとがきや解説の「クリスティは最後まで作品のレベルが落ちない」みたいな文書を読んで、そうだと思っていたが、トミーとタッペンスやミス・マープル、ノン・シリーズを年代順で読むとそうでもないことに気づく。ここから先、名作は無い、とは言わないが、このサイトの書評を見ても結構キツイ作品がありそうな感じを受ける。創元文庫は比較的売れ筋の作品を出版したのかも知れない。一方でひとつの著者の作品を徹底的に出版するのも別の在り方と言える。

名探偵ポワロ長編第十三作
「ひらいたトランプ」
本書は、ポワロとバトル警視、レイス大佐、オリヴァ夫人との共演作となっている。
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  • 掲載日:2023/06/19
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